今学期はDepartment of Economicsで開講されているミクロ経済学・経済数学と統計学・計量経済学に関する5つの科目を履修した.AgEconの学生はEcon Departmentへコアコースを"出稼ぎ"しに行くカリキュラムとなっている.Purdue(のEcon Department)はSemesterを8週間・8週間に分割するModule制を採用している.そのため,日本で1学期かけて履修する内容を半分の期間で扱うことになり,かなり濃厚なSemesterであった.また,毎月のように中間あるいは期末試験を受験し,かなりヒリヒリした.下記に簡単に各分野の内容を纏めておきたい.
ミクロ経済学・経済数学
教科書 経済数学
Sundaram, R. K. (1996). A first course in optimization theory. Cambridge University Press.
Simon, C. P., & Blume, L. (1994). Mathematics for economists. W. W. Norton & Company.
ミクロ経済学
Mas-Colell, A., Whinston, M. D., & Green, J.R. (1995). Microeconomic Theory. Oxford University Press.
Maschler, M., Zamir, S., & Solan, E. (2020). Game theory (2nd Edition). Cambridge University Press.
Osborne, M.J. & Rubinstein, A. (1994). A Course in Game Theory (1st edition). MIT Press.
要約と感想
統計学の講義は,エコノメのコアコースにつながるような基礎的な確率・統計に関する講義であった.確率論の基礎から始まり,確率密度関数や累積分布関数,条件付き期待値・分散の性質や変形された確率変数のPDFの導出,モーメント母関数,そして不偏性と一致性,確率・分布収束,中心極限定理といった重要なトピックが扱われた.
計量経済学の講義では,基本的には諸仮定を整理した上でOLS推定量がBLUEであったり,一致性を持ったりすることを見ていった.その後は,信頼区間,t-value,p-value, Joint Testingといった仮説検定のトピックを一通り扱い,平均独立の仮定が満たされない状況とその状況が推定量に与える影響,そしてその解決策として操作変数を用いた推定に関して説明がなされた.
今学期の履修科目の中で,計量経済学の講義は今後実証研究を行っていく上で一番勉強になったし,実証分析を行う上での心持ちを学んだ.一つ目の勉強になった点は,どういった計算がプログラムの中で実際に行われているか,あるいは今後パッケージ化されていない推定量や推定枠組みを自分で実装する手順を知れたことにある.これは,OLS推定量やFWL定理を用いて回帰式を推定したり,推定量の分布を可視化したりするようなプログラムをMATLABで開発するような課題が課されたことが大きい.
もう一つ勉強になったと思った点は,計量経済分析に対するBeliefが変わったことにある.計量経済分析は(正しく実施しなければ)極めて主観的な分析であると改めて感じた.そして,そのような分析から出てきた数字や有意な係数だけを見て議論を進めることも危険であることを改めて実感した.というのも,"Keep in mind the importance of economic rather than statistical significance"という講師の言葉が一番印象に残った.文脈は違うかもしれないが,踊る大捜査線の「事件は会議室で起きているんじゃない,現場で起きているんだ!」も頭に浮かんだ.結局,統計的有意性を追及して研究を実施するのではなく,研究の対象としているフィールドで何が起きていて,何故それが重要なのかを考えないことにはどんなに難しいモデルを推定してエビデンスを得ても,その社会的意義は小さいのだと改めて学んだ.過去の自分を省みて,自分の研究に対して自戒の念を感じた.