2025 Spring Semesterの学習・研究記録
早いものでPurdueでの2学期目が終わった.今Semesterも勉強・研究の記録としてこのBlogをしたためたいと思う.
講義
今学期はDepartment of Economicsで開講されているミクロ経済学IIIと計量経済学に関する講義と,Department of Agricultural Economicsで開講されていた計量経済学と国際部分均衡モデルに関する講義,そしてDepartment of Industrial Engineeringで開講された非線形最適化のアルゴリズムとモデルに関する講義の計5つの科目を履修した.昨学期と同様に下記に簡単に各分野の内容を纏めておきたい.ミクロ経済学III
教科書:ミクロ経済学
要約と感想
一般均衡理論,厚生経済学,マッチング理論,Social Choiceに関するTopicが一通り扱われた.マッチング理論に関しては存在は重々知っていたものの,アルゴリズムの理論的背景や詳細については勉強したことがなかったので大変興味深かった.農業経済学での応用例はあるのかと簡単に調べたところ,前々指導教員の農地集積に関する研究がヒットした.今後の農業の担い手が使用したい農地をProposeするような制度設計がなされれば,確かに担い手の観点で最も望ましい農地配分及び集積が(理論的には)達成可能であるとわかり,学部時代には難しくて敬遠していたのだが,5年越しにその学問的・実学的な面白さを理解することができ,大変嬉しかった.Social Choiceに関しては,教授の極めてCreativeなSocial PreferenceのRationalityの証明や,その他複雑な証明に苦戦した.
計量経済学 by Econ Department
教科書:計量経済学
要約と感想
ブートストラップ法,GMM,パネルデータに関するTopicがカバーされた.ブートストラップ法に関しては,弾力性の標準誤差を推定する際によく使われているということしか印象になく,その理論的な背景やUnbiasedかつ誤差項の構造と整合的な推定を行う際にどのタイプのブートストラップ法を使うべきかなど,知識が不足していた節があったので非常に勉強になった.ブートストラップについては,MATLABによるプログラム課題が非常に重く,同期と夜な夜なコードや出力結果の確認を行ったこともあり,理解が促進された.また,分野柄パネルデータを多用するので,もう一度固定効果モデルの基本的な仮定や係数の解釈について一から学びなおせたことは大変良かった.
計量経済学 by AgEcon Department
教科書:計量経済学
要約と感想
所属学科で開講されていた計量経済学の講義.OLSから始まり,IV,GLS,System of Equations,Panel Data Analysisがカバーされた後に,Imbens-Rubin流の因果推論枠組みに関するトピックが扱われた.前学期と今学期にDepartment of Economicsのコア計量I・IIを既に履修していたこともありほとんどのトピックについて馴染みがあったものの,トピック当たりの授業数がEcon Departmentよりもタイトではなかったため,相乗効果で理解が進んだ.かなり丁寧な導出や農業経済学への応用が念頭に置かれていたこともあり,とても勉強になった.講師が推定量の開発やその適用を専門としていたため,推定量をどう評価するかという点でこの講義は大変勉強になった.下記の画像は,OLS推定量の欠落変数バイアスと一致性をモンテカルロシミュレーションにより確認することを求められた課題より抜粋.
国際部分均衡(SIMPLE)モデルに関する講義
教科書:近年,気候変動やR&D,人口増加など国際的な問題の持つ各国の食料価格や穀物生産量,そして土地利用や温室効果ガスの排出量への影響を解明する際に広く用いられているSIMPLEモデルに関する講義であった.SIMPLEモデルの開発者の一人により開講され,栄養問題,R&D,食品ロス,水利用,Globalizationといった食料・農産物を取り巻く重要課題を第一線で研究する研究者を招き,これら重要課題と関連した最先端の研究を学習していく講義であった.その傍ら,Lab Assignmentと評して人口増加や各国の環境政策が食料生産・需要に与える影響をSIMPLEモデルにより分析する課題が多く出された.私としては,PNASに出版されたPaperを読み,このモデルの存在を知り,Purdueを志望した経緯があったので実際に自分がこのモデルを用いることができ,とても感動した.それと同時に(CGE) Modelingがどういった仮定の下で構築され,何を明らかにすることができ,何が限界なのかという点についても少しではあるが学ぶことができたと思う.奇しくもModelingは2人の前指導教員が得意としていた分野であり,最終的にこの分野にたどり着いたことも何かの縁だと感じている.
非線形最適化のアルゴリズムとモデル
教科書:この講義は本当に大変だった.Department of Industrial Engineeringで開講されていることもあり,かなりRigorousな数学の講義であった.様々な集合に関する概念やKKT条件のよりRigorousな定式化,そして,目的関数を最適化する際のAlgorithmとその数学的な特徴について学んだ.前述の最尤推定量を実装したり,進級試験に向けて効用最大化や費用最小化問題,利益最大化問題を復習したり,この講義が終わった今となってはこの講義の有用性は非常に大きかったと感じている.ただ,履修している最中においては,単位がとれるのか,そしてAssistantshipで課されている最低のLetter Grade要件を満たせるのか,本当に心配で精神的にきつい講義であった.物理的・肉体的にも,試験3回,課題7回,そして学習したアルゴリズムを用いて最適化問題を解くFinal Paperとてんこ盛りの講義であった.苦労の甲斐ありStaticなOptimizationに関してはかなり自信がついた. 経済学で数学の準備というと経済数学に関する書物を参照しがちであるが,上記で上げた教科書の位相・集合論や最適化に関する章は経済学に求められる数学をしっかり学ぶ上でも有用であると感じる.